クリントン・ロメシャ著『レッド・プラトーン――14時間の死闘』(伏見威蕃訳、早川書店、2017・10)

 朝日新聞の書評欄でとりあげられていたのを見て、読んでみる気になった。アフガニスタンでの米軍の作戦の実態を知ることができると考えたからだ。

 本書は、2009年10月3日から4日にかけて、アフガニスタン北部のパキスタンに近いヌーリスタンにある米軍の前哨基地で実際におこった戦闘の記録である。作者は、この戦闘を実際にたたかい、生き抜いた二等軍曹である。除隊後、自分の記憶にとどまらず、生存者を丹念に取材してまとめ上げた。発売とともに、ニューヨーク・タイムスの書評欄のベストセラーに名を連ねたという。

 キーティングと呼ばれるこの基地は、四方八方を山に囲まれた谷底のようなところに位置し、どの山からでもタリバンが攻撃しやすいきわめて不利な地形できわだっている。どうしてこんな所に基地を設置したのか、米軍自身が早急に撤退を考えていた。その矢先に、よく訓練されたタリバンの精鋭部隊に致命的な地理的弱点をつかれ、四方の山岳地帯からの集中的な攻撃に遭う。米軍の本隊が駐屯する本拠地はヘリコプターで往来する近くにあり、この前哨基地には約50人の米兵とアフガニスタン国軍、警察隊などがいる。襲ってきたタリバンは300人以上、攻撃と同時にアフガニスタン国軍、警察隊は雲散霧消してしまい、わずかな人数のアメリカ兵が死に物狂いで基地の防衛にあたる。主な武器は、基地内に置かれた何台かの装甲車に備え付けられた野砲や機関銃である。タリバンは、基地の地形や施設の配置、武器の状態などを綿密に調べ上げていて、弱点をみつけて集中砲火をあびせ、狙撃兵は米兵一人一人に狙いをさだめて銃砲をうちこんでくる。

 プラトーンとは小隊という意味で、レッド・ブラック、ホワイトと別れている。筆者が属するレッド小隊は、アフガンやイラクなどで鍛えられたよりぬきの兵士たちで構成され、おたがいに気心も知れている。その兵士たちが、一人また一人と倒れていく。なにしろ基地は、四方の山から見下ろせ、遮蔽物などなにもないのだ。アフガン国軍が駐屯していた兵舎から火が出て、基地は火炎につつまれる。

 タリバンは、基地の正面入り口を突破して、基地内に入り込んでくる。米軍部隊の壊滅は時間の問題になる。基地の指令室では部隊を指揮する将校が、無線で本隊に緊急の救援をもとめるが、ヘリコプターや航空機が到着するには時間がかかる。その間、持ちこたえることができるかどうか? タリバンのすさまじい砲撃と果敢な突入にたいして、装甲車に陣取る米兵の応戦は手に汗をにぎる凄まじさである。やがて攻撃ヘリと戦闘機、爆撃機が到着し、空からものすごい物量の砲弾をタリバン部隊に打ち込み、形勢を逆転させてゆく。何百人というタリバン兵士たちや、住民たちが、文字通り粉砕され、姿形をとどめないほど打ち砕かれていく。他国に侵入して、これだけの大量破壊、殺人をおこなって、罪悪感はまったく感じられない。このあたりは、筆者をふくめ、米軍の実相であろうか?

 最後は、基地内のあちこちに残された仲間の死体収容である。つい数時間前までいっしょに笑い、語り合っていた仲間の無残な姿に涙を流し、遺品を収容して遺体とともにヘリコプターに載せる。著者のロメシャは、この戦闘での功績により、帰国後オバマ大統領から特別の米栄誉賞をさずけられる。(2018・2)