山歩き 

大井川鉄道SLで寸又峡温泉へ   2017・12・27~29

 

  年の暮に次女ののお誘いで静岡県の大井川にそって走る大井鉄道の蒸気機関車SL列車に乗って、寸又峡温泉へ二泊三日の旅にでかけた。南アルプスの玄関口ともいえる奥大井を訪ねるのはもちろん初めてである。幸い天候にも恵まれ、雄大な自然と温泉を満喫することができた。

 新金谷から懐かしいSL機関車で

 27日(水)朝8時少し前に妻と二人で自宅を出発、横浜線で新横浜へ、j次女合流して東海道新幹線のこだま号に乗って静岡まで行く。年末だがまだ帰省客もさほど多くなく、列車はゆったりしている。静岡で各駅停車の電車に乗り換え、焼津、安倍川、藤枝、島田と名前は良く知っているが、新幹線ではあっという間に通過してしまう各駅をたどり、10時過ぎに金谷駅に到着する。金谷駅には新しいスマートな駅舎が建つものの、駅周辺には商店一つ見当たらない。閑静なところである。ここで大井鉄道にのりかえ、次の新金谷で再び乗り換える。これは一日一本しか走らないSLが新金谷発で、これに乗るためである。 

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 新金谷駅では、C11190という昔懐かしい蒸気機関車が待機している。シュー、シューと蒸気音を発し、もくもくと噴煙を吐き出しながら走る列車で、大井鉄道が観光用に走行させていて良く知られているが、体験するのははじめてである。SLに乗ったのはいつ頃までであったろうか? 思い出深いのは何といっても学生時代、上野と越後の郷里までのあいだを夜行列車で行き来していた半世紀前のころである。夏は開け放した車窓から煙が入ってきて、顔中煤だらけになった。けっして快適ではなかったのだが、今となっては懐かしい。そんな記憶も蘇らせながら乗車する。客車も板の窓枠で、座席も固い木材でできていて、そのうえせまくるしい。トイレなども昔の粗末なものがそのままである。列車は、幅の広い大井川にピッタリ沿って進む。川岸には家並とともに茶畑がひろがる。新金谷で購入したおにぎり弁当を食べながら、窓外の景色を楽しむ。両岸にはしだいに山並がそびえるようになり、人家が少なくなっていく。川はゆるやかに流れ、水量もいまはさほど多くない。列車は急行で、新金谷を出ると、家山、下泉、駿河徳山といったいくつかの駅にのみ停車する。約一時間で終点の千頭駅に到着。ここは大井川の川岸の静かな平地で、寸又峡や接阻峡、南アルプス登山への起点となっている。駅近くには、音戯の里という、小鳥のさえずりなどさまざまな自然の音を楽しむ変わった施設がある。駅舎内には、昔よく見かけた転車台が保存されていて、いまも使われているので名物になっている。

 ここからバスで約一時間かけて寸又峡へ向かう。バスは、しばらくは大井川に沿って、千頭から井川というところまで通っているトロッコ電車の路線と並行してすすみ、奥泉というところでトロッコ線を離れて、急峻な山道をぐんぐん登り、海抜1827メートルの朝日岳中腹まで登る。そこ から左に折れて、こんどは急斜面を一挙に降って、恐ろしく深い峡谷にむかう。そこに寸又峡温泉がある。東に朝日岳、北に前黒法師岳(1943メートル)、西に沢口山(1425メートル)に囲まれた、すり鉢の底のようなところである。温泉入り口には、寸又峡温泉と書かれた大きな標識が立ち、駐車場がある。温泉入り口というバス停で下車して少し戻ると、左手に翠紅苑という純和風の静かな旅館がある。庭先に古い水車をそなえた寸又峡で一番の老舗で、ここが今夜の宿である。

 午後3時前に宿に入る。ロビーには、囲炉裏をあしらって炭火に鉄瓶がかかっている。和紙でつくった手芸品の灯火がおかれているのも目にとまる。10~11月に寸又峡温泉街で開かれる“和紙のあかり展”の作品とのこと。部屋は3階の一番奥237号室、落ち着いた和室である。窓からは隣の廃校になった小学校の小さな建物が見える。二宮尊徳の石像がそのまま置かれている。建物は今公民館、老人クラブの施設として使われているという。

 少しくつろいで、寸又峡の本命ともいえる夢の吊り橋の見学にむかう。ここから大井

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川の支流である大間川を約30分かけて登って行ったところにある。このあたりは晴れてはいるものの寒波におそわれ、風花が舞う天候ですこぶる寒い。防寒着をまとって舗装された山道をのぼる。途中で大間ダムを見下ろしながらさらにすすむと、右手に急な石段があり、これをくだりきると夢の吊り橋がある。高さ8メートル、長さ90メートルというから、吊り橋としてはさほど大きなものではない。しかし、床は荒い目の金属網のうえに板を二枚敷いただけで、歩くたびに大きく揺れる。真っ青な水をたたえる川を見下ろすと、いまにも墜落しそうな錯覚にとらわれ、恐怖に襲われる。妻は最初から敬遠したが、私は杖をにぎりながら、うっかり落としたら大変と、恐るおそるわたる。この吊り橋の景観は、川の流れをはじめ周囲の自然となじんで、たしかにすばらしい。

 宿に帰って一風呂あびて、ビールで乾杯。宿の夕食は、囲炉裏焼とのこと。囲炉裏をしつらえたテーブルで、炭火にヤマメの串刺し炙ったり、肉、野菜を焼いて食べるという趣向。日本酒にウイスキーを少々。美味しい和食をじっくりと味わう。程よい疲労で、早々と9時に就寝。

 ロッコ電車で湖上駅・レインボー・ブリッジから接阻峡温泉へ

 28日(木)。今日は、いったん千頭にもどって、トロッコ列車大井川鉄道井川線)、南アルプス・アプトラインに乗って、大井川の鉄橋の途中にある奥大井湖上駅で下車し、一駅先の接阻峡温泉まで歩く予定である。

 朝8時45分発のバスは、われわれ3人以外に乗客は一人だけである。旅館は満室だったというから、皆さん車で来ているのだろうか。バスは前日と反対に、急な坂道を登り、山の上から千頭へ一気に降る。千頭からのトロッコ列車は、普通の列車の三分の二くらいの大きさの車両で、途中いちしろ駅から長島ダム駅までの一区間アプト式鉄道となっている。日本では現在ここだけだという。アプト式とは、歯車レールを使って急な斜面を滑らずに昇り降りする鉄道をいう。上越新幹線が竣工するまでは確か横川駅から軽井沢駅までがアプト式鉄道だったと記憶する。横川の釜めしが有名になったのは、横川での車両交換で停車時間が長く、その間駅弁として釜めしを販売できたからである。

 トロッコ列車は三両連結でゆっくり走る。年の瀬で乗客が少なく私たちに乗った車両はわれわれだけである。途中の奥泉駅までは、大井川に沿って走る。川幅も広く、河岸には人里が見られたが、奥泉駅から先は、急峻な山に囲まれた渓谷となる。崖のような山の急斜面にところどころ人家が点在する。よくもこんなところに人間が住めるものだと思う。列車はゴトゴトと音をたてながらゆっくりと高度をあげていく。いちしろ駅でアプト式の機関車に切り替えるために10分ほど停車、乗客は連結作業を撮影しようと機関車の近くに群がる。長島ダムまでは1000分の90という日本一の急こう配を運行するという。

 長島ダムは、大井川の地形と豊富な水量を利用してつくられた多目的ダムで、周囲は公園や散策路が整備され、雄大なパノラマ空間となっている。その景観は、黒部ダムを小型にしたような感じである。長島ダムの二つ先が、きょうの目的地、奥大井湖上駅である。長島ダムに通じる峡谷にレインボー・ブリッジなる鉄橋がかかっていて、その中間に駅があるので湖上駅である。駅を降りて、鉄橋の上に線路と並行して設置されている狭い歩道を対岸まで歩く。昨日の夢の吊り橋ほどではないが、スリル満点である。対岸から急な登りがあり、これをどうにかよじ登りきると、レインボー・ブリッジを眼下に一望できる展望台のようなところにでる。ここから橋を撮影する。なかなかの景観である。

 そこから車道をあるいて接阻峡温泉にむかう。大井川の渓谷を眺めながらのゆっくりとした散策である。途中にお堂のような建物があり、そこで千頭で買ってきたあんパンと干し柿を昼食代わりのほおばる。少し先に、接阻大吊り橋というのがあって、これをわたって接阻峡温泉に至る散策路もあるのだが、時間の関係で省略して、まっすぐ接阻峡温泉へいそぐ。接阻峡温泉 は寸又峡よりもっとひなびたところで、温泉場も僅かしかなく、しかも本日は定休日で営業していないという。接阻峡資料館なる建物があったが、料金を払って入場する気にもならず、少し高台にあるトロッコ列車の駅にむかう。駅には小さな駅舎もあるのだが、誰もおらず、発車時刻になったら一人のお爺さんがきて改札口を開けてくれた。乗車した帰りの客はわれわれだけである。

 トロッコ列車は、約30分かけて午後3時近くに千頭にもどる。朝とは逆方向のバスで、ふたたび寸又峡温泉へ。午後 4時に着いた。今夜は、通常の食事で純粋な和食である。ワインにウイスキーを少々。ひさびさに、おだやかな日和の雲一つない晴天のなかを、ゆっくりくつろげたすばらしい一日であった。

 

大井川にそって電車を乗り継ぎ帰路へ

 29日(金)。暗いうちに朝風呂をあびて、何時もの散歩に出る。晴天なのだが期待したような星空は見られなかった。本日は帰るだけである。朝食後ゆっくり休んで、10時5分発のバスで出発する。このバスも三日目となるのですっかりなじみになってしまった。千頭ですぐに大井鉄道に乗り換える。きょうはSLではなく、ごく普通の電車である。乗客用の車両も暖房が入っていて、清潔で居心地が良い。今回は各駅停車で、大井川を眺めながら降っていく。

 電車の中で、この大井川鉄道について思いをめぐらす。この鉄道は、金谷の始発から終点の千頭まで、全線ひたすら大井川にそって走る。日本全国鉄道は多々あるが、一つの川にひたすら沿って運行している鉄道が他にあっただろうか? ちょっと思いつかない。その意味では、珍しい路線といえよう。おかげで、この鉄道とその延長のトロッコ列車で、大井川のすべてを体験することができる。得難い鉄道といえる。  列車は一時間余で金谷に到着する。東海道線にのりかえ、一昨日の反対で、島田、藤枝、安倍川、焼津と辿って、静岡で新幹線のひかりに乗り換える。昼食はホームの立ちそばで済ませる。

 新横浜で次女と別れて横浜線の快速で自宅へ。午後四時前に帰宅。2017年を有意義な旅でしめくくる。                     

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