下村敦史『砂漠の薔薇』(角川書店)

 作者は1981年生まれというから、30歳代後半である。『闇に香る(2014)で江戸川乱歩賞を受賞している。とにかくスケールの大きなエンタメで、面白い、と新聞書評欄に紹介されていたので、読んでみた。今日の原発問題、とくに使用済み燃料の処理という国際的な課題を視野に入れた奇想天外な作品と言えよう。

 主人公の峰は、うだつのあがらない中年の考古学者で、エジプトで発掘作業にたずさわっている。多年の念願かなってミイラを掘り出したのだが、そのミイラは古代のものではなく、ごく最近殺された遺体だった。しかも、エジプト政府による保管場所から何者かによって盗まれてしまう。そんななか、峰はフランスからの学術講演を頼まれて、カイロからフランスへ行く飛行機に乗る。そこには、永井という得体のしれない日本の青年、ベリーダンサーだという美しい娘、シャリファ、エリックというフランスの青年、見るからにその職業を疑いたくなるアラブ人のアフマドなどが同乗している。

 旅客機は、ハイジャックされて墜落して陸地に不時着する。そこがサハラ砂漠の真ん中だということに気づくのは、爆発する機体から生存者が脱出して間もなくしてからだった。ハイジャックに遭った旅客機は、レーダを避けて低空を飛んでいて燃料が尽きて墜落したようだから、事故現場はどこの空港の管制塔も知らない。さてどうするか、生存者の意見は二つに割れる。エリックは、飛行機の窓から〇〇の方向にオアシスを見た、じっとして死を待つより、そこを目指そう、と言う。もう一方は、下手に動くよりここにいて発見され救援されるのを待とうという。議論は紛糾するだけで結論が出ないので、一行は二手に分かれる。

 峰、永井、シャリファ、アフマド等はエリックとともに、オアシスをめざす。旅客機に残されていたわずかの食料と水を皆で分かっての砂漠の行軍だが、砂嵐やサソリの襲来など想像を超える苦難の連続になる。墜落で死亡した副操縦士のポケットから奪った拳銃を独り占めするアフマドは、次第に一行に君臨する独裁者になり、したがわない者を射殺さえするにいたる。オアシスを見た唯一の人間で、一行の道案内役だったエリックも犠牲になる。

 そんななかで、峰が疑っていた永井が何者かが次第に明らかになる。もともと汚染され放射能を除去する仕事をしていたのだが、福島の原発事故で絶望的になってその仕事をやめ、家族とも別れてフランスで原子力関係の仕事についている。そして砂漠のなかに自然状態で核分裂がおこなわれている不思議な場所があることを突き止めたという。「砂漠の薔薇」とは放射能で汚染された砂が変形してできる模様のことだという。アフリカのガボンで最初に発見され、これが世界で二ヵ所目めで、放射能汚染の処理技術の進歩にはかりしれない貢献をするはずだと言う。そして、それがゆえに永井は、某国などの諜報機関などに狙われ、身の危険にさらされているという。その永井も銃弾を浴び、サハラ砂漠での重大な発見を記したメモを峰に託してこと切れてしまう。

 峰らは、砂漠の中でアフマドや彼と行動をともにする武装ゲリラ部隊に追われ、スリリングな活劇を重ねながら、親切な遊牧民のカリーム親子に助けられて、なんとか生き抜いてアルジェリァの都市コンスタンティーヌにたどり着く。そこで峰は、記者会見を開いて永井から託された重大発見を発表するのだが?

 おおよそこんなストーリーである。アフリカのサハラ砂漠を舞台にしたこのような奇想天外な作品が、日本の青年によって書かれることに驚きを禁じ得ない。(2018・4)