読書

高橋徹著『「オウム死刑囚 父の手記」と国家権力』(現代書館)、2023、7)

2018年7月6日、予告もなく突然、麻原彰晃らオウム真理教の幹部7人の死刑が執行された。そのなかに、教団の諜報省トップといわれた麻原の腹心、井上嘉浩がいた。地下鉄サリン事件の主犯のひとりで、15歳、高校生の時に麻原と出会い、その教えと人物…

川越宗一『福音列車』(角川書店、2023、11)

作者は、一九七八年生まれの若い作家だが、サハリンを舞台に政治犯として祖国を追放されてこの地に来たポーランド人と北海道から移住したアイヌの交流を主軸にしたスケールの大きな作品で直木賞を受賞している。キリシタンの小西行長の孫を主人公とする『パ…

川越宗一『福音列車』(角川書店、2023、11)

作者は、一九七八年生まれの若い作家だが、サハリンを舞台に亡命ポーランド人と北海道から移住したアイヌの交流を主軸にしたスケールの大きな作品で直木賞を受賞している。キリシタンの小西行長の孫を主人公とする『パション』という歴史小説もある。 本作は…

ジェフリー・アーチャー『ロスノフスキ―家の娘』(上下、ハーバーコリンズ・ジャパン、2023・4)

本作は、初版が1982年に出ているが、著者が手を加えて2017年に改訂版が出版され、その翻訳がさきごろあらためて刊行された。作者には、『ケインとアベル』という代表作があり、この作品はその続編、ないし姉妹編ということになる。そのため初めに『…

ジェフリー・アーチャー『ロスノフスキ―家の娘』(上下、ハーバーコリンズ・ジャパン、2023・4)  本作は、初版が1982年に出ているが、著者が手を加えて2017年に改訂版が出版され、その翻訳がさきごろあらためて刊行された。作者には、『ケインとアベル』という代表作があり、この作品はその続編、ないし姉妹編ということになる。そのため初めに『ケインとアベル』について簡単にのべておかないわけにいかかない。 同作は、ドイツ、ソ連の圧迫から逃れてアメリカに渡り、給仕見習いから身をおこしてホテル王にのしあがるポーラン

本作は、初版が1982年に出ているが、著者が手を加えて2017年に改訂版が出版され、その翻訳がさきごろあらためて刊行された。作者には、『ケインとアベル』という代表作があり、この作品はその続編、ないし姉妹編ということになる。そのため初めに『…

垣根涼介『極楽征夷大将軍』(文芸春秋社、2023・5)

第169回直木賞受賞作である。作者は、1966年生まれ、2000年に『午前3時のルースター』でサントリーミステリー大賞と読売賞を受賞、いらい吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞。山本周五郎賞などを立て続けに受賞している売れっ子作家である。…

楊双子『台湾漫遊鉄道の二人』(三浦裕子訳、中央公論社、2023、4)

台湾ではこのところ1895年から1945年まで続いた日本統治時代に人々の関心が集まっているそうだ。一見、不思議に思うかもしれないが、中国の圧力が強まる中で、みずからの歴史や文化を大切にしたいとの思いが高まっているのだそうだ。半世紀続いた日…

桐野夏生『真珠とダイヤモンド』(毎日新聞社、2023・2)

高度経済成長とバブルの時代を背景に、あくことなき儲けの追求で金と欲とに翻弄され、結果としてそのつけを払わせられることになる男女の憐れで悲惨ななりゆきをリアルに描き出している。『サンデー毎日』に連載(2021~22)された作品である。 伊東水…

池澤夏樹『静かな大地』(朝日新聞社、2003)

同じ作家の最新作『また会う日まで』(朝日新聞出版)を読んだのを機会に、この作家の別の作品も読んで見ようと思い、やはり「朝日」(2002~2002)に連載されたこの作品を選んだ。前者が、海軍少将で天文学者、クリスチャンという異色の人物の生涯…

池澤夏樹『また会う日まで』(朝日新聞出版、2023・3)

作者の池澤夏樹は、1945年生まれ。1988年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年、『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞を、『静かな大地』で親鸞賞、司馬遼太郎賞を受賞している作家である。「朝日」に連載(2020~2022)され、B5判で…

柳広司『南風に乗る』(小学館、2023・3)

作者は、1967年生まれ。『贋作『坊ちゃん』殺人事件』で朝日新人文学賞、『ジョーカーゲーム』で、吉川英治文学新人賞などを受賞しているが、私は読んだことがない。ジャンルから言えばミステリーを書いてきた人のようだが、本作は違う。1952年、サ…

シャーリー・アン・ウィリアムズ『デッサ・ローズ』(藤平育子訳、作品社、2023・2)

「朝日」の書評で20世紀を代表する黒人文学として紹介されていたので読んでみた。作者は大学教授で、文芸批評家、小説家、詩人、児童文学者である。1944年生まれで、99年に没している。生活保護を受ける貧しい黒人家庭に生まれ、近所の年上の黒人男…

夏川草介『レッドゾーン』(小学館、2022・9)

作者は、1978年生まれの医師(消化器内科)で、医療現場をテーマにした『神様のカルテ』シリーズ知られる。このシリーズを読んでいたので、コロナ禍の病院を舞台にした本作も発売後すぐに読みたかった。しかし、貸し出しを申し込んだ図書館はすでに予約…

川上未映子『夏物語』(文芸春秋社、2019)

「朝日」の書評欄で同じ作家の新作『黄色い家』が紹介されていて興味を魅かれ図書館から借り出そうとしたら所蔵していないとのこと。作者についてネットで調べてみると、表題の前作が既に十数カ国で翻訳、出版されているという。それならまずこちらを読んで…

芹沢 央『夜の道標』(中央公論新社、2022・8)

バスケットとボールの選手をめざす中学生の中村桜介は転校してきた橋本波留と仲良しになる。波留は体格においてもバスケットボールの技量においても桜介をはるかにうわまわり、桜介は波留にあこがれ、たよりにもしている。この波留が、たまたま桜介が路上の…

江刺昭子著『透谷の妻――石阪美那子の生涯』(日本エディタースクール出版部)

東京都町田市出身の石阪美那子(1865~1942)は、日本の近代文学の草分けの一人で早逝した北村透谷の妻として話題にのぼることはあるが、それ以外に一般にはあまり知られていない女性である。しかし、透谷が25歳で自殺した後、30歳をすぎてから…

柚木麻子『らんたん』(小学館、2021・11)

大正の末年、1925年、徳川最後の将軍家定の御台所、天璋院篤姫が名づけの親という一色乕児(54歳)が女教師の渡辺ゆり(38歳)にプロポーズする。ゆりは、ある女性とのシスターフッドの関係継続を認めるという条件で応諾する。結婚しても、先輩であ…

柚木麻子『らんたん』(小学館、2021・11)

大正の末年、1925年、徳川最後の将軍家定の御台所、天璋院篤姫が名づけの親という一色乕児(54歳)が女教師の渡辺ゆり(38歳)にプロポーズする。ゆりは、ある女性とのシスターフッドの関係継続を認めるという条件で応諾する。結婚しても、先輩であ…

豊下樽彦著『安保条約の成立』(岩波新書)

敗戦後の日本がサンフランシスコ条約で独立を回復して70余年、なお屈辱的な対米従属が続いている。その根源となっているのが日米安保条約である。この条約がどのようにして成立したのかをきちんとたどりたいとの思いは、かなり以前からあったがはたせずに…

ジェームズ・L・ノーランjr著『原爆投下、米国人医師は何を見たか』(藤沢町子訳、原書房、2022・7)

著者は社会学者で、マンハッタン計画とそれによる最初の原爆実験に参加し、原爆投下直後の広島、長崎をも訪れている医学者、ジェームズ・F・ノーラン(1915~1983)の孫である。父が亡くなった際に母が祖父の残した箱を携えて著者を訪ねてきた。その…

ジェームズ・L・ノーランjr著『原爆投下、米国人医師は何を見たか』(藤沢町子訳、原書房、2022・7)

著者は社会学者で、マンハッタン計画とそれによる最初の原爆実験に参加し、原爆投下直後の広島、長崎をも訪れている医学者、ジェームズ・F・ノーラン(1915~1983)の孫である。父が亡くなった際に母が祖父の残した箱を携えて著者を訪ねてきた。その…

平野啓一郎『本心』(文芸春秋、2021・5)

同じ作者の作品に『ある男』がある。愛する夫の死後、夫が名乗っていた人物とはまったくの別人だったことがわかる。果たして本当は誰だったのか、というミステリー仕立ての作品だが、本書はその延長線のような作品で、生とはなにか、死とは何か、そもそも人…

ジョン・ダワー著『戦争の文化―-パールハーバー・ヒロシマ・9・11・イラク』(上下、三浦陽一監訳、岩波書店)

日本の戦後史を描いた『敗北を抱きしめて』を読んで深い感銘を受けたので、本書の翻訳が刊行されたとの報に接し、すぐ図書館に借り出しを申し込んだ。ところが、すでに先着が数十人おり、7月半ば過ぎにようやく借り出すことができた。ただちにとりかかり、…

ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』(友廣純訳、早川書房、2020・3)

2019年に全米で70万部を突破し、日本では2021年度の本屋大賞翻訳部門第1位となっている。新聞の書評などで知って読む意欲をそそられたが、購入するのもと思い近くの市立図書館で借り入れを申し込んだら、なんと百数十番ということで、貸出までにち…

堀川恵子『暁の宇品――陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』(講談社、2021・7)

第48回大佛次郎賞受賞作である。筆者は広島出身で1969年生まれのドキュメンタリー作家。『教誨師』(講談社)、『戦禍に生きた演劇人たち』(同)などの作品がある。本書を知ったのは、たしか「朝日」の書評だったとおもうが、かつての日本軍とその戦…

今村翔吾『塞翁の楯』(集英社、2021・11)

第166回直木賞受賞作である。時は戦国時代、秀吉の死を機に徳川家康の東軍と石田三成らの西軍が雌雄を決した関ケ原の戦いの直前、琵琶湖畔の大津城に籠った家康側の京極高次を毛利元康ら多勢の西軍が攻め、死闘の末高次側が降伏する。いわば関ヶ原の合戦…

ジェニー・エルペンベック『行く、行った、行ってしまった』(浅井晶子訳、白水社、2021・7)

ロシアによるウクライナ侵攻で国外への脱出を余儀なくされた人が400万人にものぼり国際的な大問題になっている。そんなときに、難民問題にとりくんだ文学作品にたまたまであった。それがこの作品である。作者は1967年に東ドイツで生まれ、フンボルト…

宮城 修著『ドキュメント <アメリカ世>の沖縄』(岩波新書2022・3)

「沖縄では四月二八日を『屈辱の日』と呼んでいる。一九五二年四月二八日、サンフランシスコ講和条約の発効によって日本は独立して主権を回復した。その一方で沖縄は、奄美、小笠原と共に日本から分離され、米国が統治する米国施政権下に置かれることにとに…

辺見じゅん著『収容所から来た遺書』(文春文庫)

1989年に初版が刊行されているが、このほど映画化が決まったとのことで文庫版が書店の平台に積まれていたので目にとめて読むことにした。著者は作家、歌人として著名な人だったが、2011年に亡くなっている。本書は第21回大宅壮一ノンフィクション…

辺見じゅん著『収容所から来た遺書』(文春文庫)

1989年に初版が刊行されているが、このほど映画化が決まったとのことで文庫版が書店の平台に積まれていたので目にとめて読むことにした。著者は作家、歌人として著名な人だったが、2011年に亡くなっている。本書は第21回大宅壮一ノンフィクション…